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東京家庭裁判所 昭和40年(家)12577号 審判 1966年7月18日

申立人 善利雄一(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

一、申立人は「申立人の氏『善利』を『服部』に変更することを許可する」旨の審判を求め、その事由として述べるところの要旨は、

(一)  申立人の氏「善利」は珍奇または難読な氏であるため、他人から正しく「ゼンリ」と呼ばれず、「ヨシトシ」の名のように呼ばれることが多いうえに、韓国人と間違えられることもあって、社会生活上著しい支障を来たしている。

(二)  申立人は、昭和三六年七月頃から竹田初子と同棲し、以来同女と事実上の夫婦として生活し、その間に二女を儲けているのであるが、右同棲後間もなく、同女の母の実家の跡を継ぐ者がないので、同女の母からの要請によりての実家の氏である「服部」を通姓として使用している。

(三)  申立人は、右竹田初子と共犯で窃盗をしたことにより、北簡易裁判所において昭和三九年一一月二八日懲役一年執行猶予二年の有罪判決を受けたのであるが、その後二人の間に出生した二人の子供のためにも、前科の汚名を受けた氏「善利」から解放されて、心気一転更生したいので「服部」という氏に改姓したい

というにある。

二、よって案ずるに、まず申立人が主張する第一の事由についてであるが、申立人の氏「善利」が、それ自体珍奇な氏、または難読な氏、或いは外国人と紛わしい氏であって、これが変更を認めなければ、申立人が社会生活上重大な支障を受けるものとはとうてい認め難く、これをもって、氏を変更すべき「やむことを得ない事由」があるとはなし難い。次に、申立人が主張する第二の事由についてであるが、申立人が通姓としてその主張する如く「服部」という氏を使用しているという証拠も十分でなく、仮にその通りであるとしても、申立人が右通姓を使用して以来未だ五年間を経過したに過ぎず、長期間通姓として使用し、これに変更を認めなければ、申立人が社会生活上重大な支障を来す段階には未だ達しているものとは認め難く、これをもって氏を変更すべき「やむことを得ない事由」があるとはなし難い。更に、申立人が主張する第三の事由についてであるが、申立人が子供のために、前科の汚名を受けた「善利」という氏から解放されて、心気一転して更生したいという心情は分らないではないが、かかる事情が、それ自体氏の変更を認めるべき「やむことを得ない事由」に該当しないことは詳言するまでもなく、明らかであるといわなければならない。また当裁判所の審問等による調査の結果によっても他に申立人が氏を変更するに足る「やむことを得ない事由」は存しない。

三、かような訳で、いずれにしても、申立人の本件申立は理由がないので、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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